シニア犬の味覚はこれまでとは違う

人間が味を感じるように、犬も味覚を持っています。
犬の舌には、味を感じる細胞「味蕾（みらい）」があり、人間の味蕾が約1万個あるのに対して、犬はその約5分の1の約1700個といわれています。
そのため犬の味覚は人間に比べると感度が低く、塩味を感じにくいのが特徴です。また犬が最も感じやすい味覚は甘みであり、犬は甘みの強い食べ物を好む傾向にあります。

そして人間同様、年齢を重ねるにつれて味覚の感度が下がる傾向にあります。それは味覚だけでなく嗅覚も同じです。

シニア犬（老犬）の中にもステージ（段階）があり、代謝量や味覚の感度に変化が出てきます。もちろん個体差は大きいですが配慮していくことが大事です。

・シニア期（大型犬7歳頃、小型犬10歳頃）

日常生活はほぼ支障はなく、被毛や鼻の色が薄くなるなど見た目に変化が出始めますが、まだ成犬ともあまり変わりがありません。ただし、代謝など体の中は変化しているのでこの頃からシニアケアを始めてあげましょう。代謝は落ち始めたのに、成犬と同じようにまだまだ食欲がある場合は肥満に注意が必要です。

感覚器官（嗅覚、味覚）も衰えがみられ、食欲自体が落ちる傾向にあります。

・ハイシニア期（大型犬は9歳以上、小型犬は13歳以上が目安）

個体差はありますが消化吸収能力が衰えてきており、食べる量の割には体重が維持できず、痩せてくる傾向もあります。日常生活の一部で支援や介護が必要になるケースもあります。見た目では白っぽい毛や目が白く濁るなど体の変化も出てきたり、疲れやすくなったりしています。体が曲げにくく、床に置いた器から食べるのはちょっと大変になってきた、など体の中と外の変化が見られます。

・スーパーハイシニア期（大型犬は12歳以上、小型犬は15歳以上が目安）

感覚器官（嗅覚、味覚）もかなり衰えがみられ、置いていても食事に気づかないこともあり、食欲自体が落ちる傾向もあります。食べることのほか、日常生活のあらゆる面で介助が必要になる場合があります。食べ物を飲み込みやすくする工夫が必要な場合もあるでしょう。

シニア犬のフードの特徴と選び方

ひと口にシニアといってもステージごとに体の状態が違うため、ステージごとに合うフードも変わってきます。これまでのフードでは体重管理が難しい、食べにくそうだと感じたら少しずつ変えてみてください。

ハイシニア期（食欲はあるが少しずつしか食べられない）

少量からでもタンパク質とエネルギーが摂れるフードがおすすめです。

スーパーハイシニア期（食べることにも介助が必要になってきた）

食べることに意欲的でなくても、口に入れればしっかり栄養が摂れる、食欲が湧くような魅力の高いごはんがおすすめです。いつものウェットフードをベースに下記のような商品を混ぜることで風味に変化がつくため、飽きずに食べ続けるサポートにも役立ちます。

シニア犬に合った食事内容と与え方

・食事の匂いや温度

衰える嗅覚の変化を補うためには、匂いを感じやすくするためにフードに人肌程度のぬるま湯をかけ、フードをふやかすなどの工夫をして匂いを強めてあげると良いでしょう。フードの匂いをよく感じられるように、鼻先にフードを近づけたり、遠ざけたりといったことをするのもおすすめです。

シニア犬用のフードでは食い付きが悪いこともあるかもしれません。そういうときは、好みのトッピングをフードに混ぜてあげると、食い付きが変わることがあります。犬の舌は甘みを感じる部分が発達しているため、食欲がなさそうなときにはサツマイモなどの甘みのあるトッピングを選んであげると喜んでくれるかもしれませんね。

また、口当たりの良い食材をトッピングすることによって食い付きがよくなる場合もあります。例えば、豆腐のような食べやすい食材をフードの上にのせてその食材から食べられるようにするのも、パートナーの食欲を増進するための方法の一つです。
ただ、くれぐれもカロリーオーバーにならないよう、食事の量や質はパートナーの様子を見ながら調節していきましょう。

・最適な量や回数

シニア期以降は見た目は元気でも体の中は年齢なりに衰えています。消化に負担をかけないようにフードの給与量は必ず注意してみましょう。減らす場合も増やす場合も2割までを限度に調整します。食べられる量が少なすぎる場合は、スーパーハイシニア期（食べることにも介助が必要になってきた）を参考に、食べやすいフードを試してみてください。

また食事回数は、1日量を3回から4回に分けて与えると消化吸収を助けることができます。また食事の回数が増えるので、愛犬の楽しみや向き合う時間を増やすこともできます。

シニア期に配慮したい栄養素

① 良質なタンパク質（動物性タンパク質のことです）を適量（多すぎない事）
② 脂質は多すぎず、プラスしたい際の脂肪の種類はオメガ3脂肪酸
③ 抗酸化栄養素（ポリフェノール、ルテイン、コエンザイムQ10など）
④ 腸内バランスを整える栄養素（プロバイオティクスとプレバイオティクス）
⑤ グルコサミンとコドロイチン（体のふしぶしのために）
⑥ そのほか免疫力維持サポート（βグルカンなど）

③から⑥については、近年のシニア犬用のドッグフードには必ず入ってくるようになりました。フードに含まれている場合でも、気になるものについてはさらに加えてもいいでしょう。ですが、サプリメントが増えるとごはんが食べづらくなり、食事を嫌がるようになる場合もあります。愛犬の様子をみながら調整することを心掛けてください。

または複数の機能性成分を一緒にとれるようなものなら与えやすいでしょう。例えば、③と⑥が一緒に摂れるパウダー状のサプリメントです。

要介護や寝たきりの場合には、獣医師とよく相談して健康状態にあったフードを与えることが大切です。
消化機能や体力が衰えている犬には、通常のフードをお湯などで柔らかくしたり、流動食をシリンジで与えたりする方法をすすめられることもあります。高栄養で飲み込みやすく消化に良い食事になるように工夫してあげましょう。

まとめ

昔に比べてとてもご長寿な犬が増えてきました。愛犬のライフステージや体調に合わせて食事の管理方法を変えていくことは、健康寿命を延ばすためにも大切なことです。

成犬のときとは違う体調の変化に私たちの方が戸惑うことがあるかもしれません。けれど、ヒトも犬も歳を重ねるのは同じ。フードの与え方を工夫したり栄養バランスを考えたりして、毎日のケアが増え、これまでより濃厚な時間を過ごすことで愛犬のひとつひとつの変化が愛おしく感じられてきます。

不安に思うことがあれば、専門家に相談したりして、穏やかな気持ちで過ごすことも大事なケアのひとつと言えます。
ぜひ愛犬のため、ご自身の食生活や休息をとることも意識なさってください。