シニア犬(老犬)の生活 ~シニアになったら知っておきたい、やっておきたい「トレーニング」~

しつけやトレーニングは子犬期に必要と思われがちですが、犬の学習能力は一生涯あり、それぞれの時期に適切な学習をすることで、パートナー(愛 犬)との暮らしをより豊かなものにすることができます。特にシニアⅠ期のパートナーには、 これから本格的に訪れるシニアライフの「備え」として、ちょっとしたトレーニングを事前にしておくことをおすすめします。その備えによってお互いの負担を少しでも減らすことができれば、今後のシニアライフの大きな助けになるでしょう。

ただし、これはあくまでお互いの負担を軽減するためのトレーニング。無理を強いては元も子もありません。大事なのは「どこまでそれが必要なのか」「どこまでそれができるのか」をオーナー様がきちんと考えてあげること。完璧を求める必要はありません。パートナーができる範囲で行いましょう

トレーニングコンテンツ

トイレを見直そう!「再・トイレトレーニング」

①室外で排泄習慣のあるパートナーには... 室内排泄への移行トレーニング

高齢になると病気や膀胱の筋力の低下などにより、尿を長時間ためておくことができにくくなることがあります。外での排泄が習慣となっているパートナーはお散歩の時間まで排泄を我慢してくれているのですが、シニア期になるとその我慢が徐々に大きな負担になってきます。また、神経や関節の病気があると足腰が弱ってくる場合もあり、排泄のたびに外に行かなくてはならないのはパートナーにとっては辛いものです。中には中~大型犬を毎回抱っこして外に連れ出さなくてはならなくなったケースも耳にします。そうなるとオーナー様への負担もかなり大きなものになります。

だからといって、昨日まで外でしか排泄したことがないパートナーが急に室内で排泄するようになることは非常にまれです。排泄は、パートナーにとってそれだけデリケートなものなのです。そこでできるだけ早いうちに、パートナーが室内でも排泄できるようにトレーニングしておくことをおすすめします。

GREEN DOG獣医師からのアドバイス獣医師からのアドバイス

「屁をためられない」「足腰が弱る」などの変化は、加齢だけではなく病気が関連していることもあります。獣医師の診察を受けることで原因が分かることもありますので、気になる症状が現れた時は一度、動物病院を受診しましょう。ただどちらの場合でも、室外排泄に慣れている子が室内でできるようになることは、パートナー自身やオーナー様の負担を軽減してくれます。根気がいることではありますが、できる範囲で取り組んでほしいトレーニングのひとつです。

室外排泄から室内排泄への移行で最も重要なのは、排泄場所の環境設定です。

実例

実例

犬種 体重
日本犬系MIX 体重11kg

15歳時点で室内排泄の経験はほぼゼロ。外では草や土、砂利の上を好んで排泄。コンクリートやアスファルトの上ではしたがらない。転居先に庭がなかったことがきっかけで、足腰がしっかりしているうちに室内排泄に移行することをオーナー様が決意。

  1. まずは外に準じた環境(擬似的環境)を設定します。

    1 まずは外に準じた環境(擬似的環境)を設定します。

    今回の場合はトイレの設置場所をベランダに設定。大きなトレー(RV車のラゲージトレー)にペットシーツを敷きつめ、ペットシーツの上からホームセンターで購入した砂利(粗いものから細かいものまで複数を試しました)を、シーツが見えなくなるくらいまでばらまきました。

  2. 2 設定したトイレでの排泄をうながします。

    ①いつものお散歩(排泄)の時間になったら、設定したトイレに連れていきます。特定のかけ声を合図に排泄するパートナーの場合は、かけ声をかけてあげます。
    ②設定したトイレで排泄をしたら大げさに褒めて大好きなオヤツをあげ、お散歩に出かけます。お散歩が大好きなパートナーなら、オヤツだけでなくお散歩に行くこと自体もごほうびになります。

  3. 上記を繰り返します。

    3 上記を繰り返します。

    設定したトイレで安定して排泄できるようになったら、徐々に条件を絞っていきます。絞っていく要素の順番や程度は、都度パートナーの様子に合わせて変更しましょう。
    (例:砂利を徐々に減らす / トレーを通常のものに替える / 場所を徐々に室内に近付ける など)

注意点 注意点

  • ・移行トレーニング中は、設定したトイレで排泄するまではお散歩(外)には行かない(我慢させる)こと。
  • ・排泄を我慢させすぎることで泌尿器系のトラブルを招かないよう、注意しましょう。すでに泌尿器系の病気を持っているパートナーには、無理をさせないように配慮しましょう。

※上記実例の日本犬系MIXの場合は、最終的にはベランダをそのままトイレの場所として設定。さらに、排泄の際にクルクルとトレーの中を動きまわるので、大きなトレーをそのまま使用しました。

②すでに室内で排泄習慣のあるパートナーには... もう一度、トイレを見直そう

もともと室内で排泄ができていたパートナーも、シニア期になると排泄場所を失敗することが増える場合があります。筋力の低下で排泄の我慢ができにくくなったり、足腰が弱ってトイレの場所まで間に合わなくなったり、病気が関係することがあるためです。こういった場合、パートナーが少しでも排泄しやすいよう、室内トイレの環境を見直すことをおすすめします。

例えば...

  • ・トイレの場所をパートナーが普段居る場所のできるだけ近くに(徐々に)移動する
  • ・トイレのスペースを広くする
  • ・パートナーが出入りしやすいトイレトレーを選ぶ
  • ・トイレを複数箇所に用意する など

場合によってはトイレの場所を変更したことでパートナーが混乱し、排泄を失敗するようになることがあります。レイアウト変更やトイレトレーの見直しをしたときは上記「室内排泄への移行トレーニング」を参考に、褒めたり声掛けをしたり誘導したりして、新しいトイレの場所を教えてあげましょう。

あたりまえですが、排泄は毎日毎日その都度必ず訪れるもの。それが負担となってしまっては、パートナーにとってもオーナー様にとっても大きなストレスになってしまいます。できるだけ負担のないシニアライフを送れるよう、気長に取り組んでみてください。

リードを使った「やさしいお散歩の方法」

お散歩の際、それまで問題なく歩いていたパートナーでも、シニア期に入ると徐々にそうはいかなくなることがあります。また、「こっちだよ」「もう行くよ」と声をかけても、反応がイマイチになることがあります。これは歳をとって頑固になったからではなく、眼の病気(白内障など)や老化によって目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったりすることで、オーナー様の動きを目で追ったり、言葉を聞き取ったりるすることが困難になってしまった可能性も考えられます。

このような場合、パートナーとオーナー様をつなぐ命綱である"リード"を上手に使い、視覚や聴覚が衰えてしまったパートナーに対して、触覚を利用した合図で歩き出しのタイミングや進行方向を優しくガイドしてあげましょう。

重要なポイントは、あくまで優しくソフトに合図を送ってあげることです。どんなパートナーでも、リードをグイと強く引っ張られたら、自分の体のバランスを保つため反射的にグッと踏んばります。そこでさらに強く引っ張ってしまうと、パートナーもさらに逆方向に力を入れることでしょう。パートナーとオーナー様がリードで綱引きをしても何もいいことはありません。むしろお互いのストレスが増えるだけです。

少しずつ動くのがおっくうになってきたとしても、お散歩自体は大好きというパートナーも多いはず。パートナーの楽しみを少しでも快適なものにして、元気なシニアライフを過ごせるようにしましょう。

リードの活用方法

  1. 1 そっと力をかけてリードを引いたら、引いたのと同じ方向にごほうび(おやつやフードなど)を差し出して食べさせます。まずはこれを室内で繰り返します。

    そっと力をかけてリードを引いたら

  2. 2 続いて、リードを引いた方向にパートナーが1歩でも踏み出したら、ごほうびをあげます。これも室内で繰り返し、1歩から2歩、3歩と徐々に歩数を伸ばしていきましょう。

    リードを引いた方向にパートナーが1歩でも踏み出したら

  3. 3 上記①と②を、外でも同じように手順を踏んで練習します。

補足補足

・リードをつなぐ先は、カラー(首輪)でもハーネス(胴輪)でも可能です。

必要になったときのために「身に着けるものや身体接触に慣らす」

必要になったときのために「身に着けるものや身体接触に慣らす」

シニア期の生活では、若い頃にはなかったケアが増えてきます。例えば体温調節のための洋服や、自力で排泄できなくなった際のおむつ(※)など、何かを身につける機会が増えます。また、寝たきりになった際に寝返りをうたせたり移動のために抱っこをしたりなど、人の手による身体的接触の機会も増えます。しかし、洋服を着たり体を直接触られたりすることに慣れていないパートナーの場合、必要以上のストレスを感じてしまうでしょう。逆を言えば、こういったケアにもできるだけ早いうちから慣らしてあげれば、シニア期に多くなりがちなケアに対するストレスを軽減することができるのです。

さらに視覚・聴覚等が衰えていくと、パートナーとのコミュニケーション方法は直接体に触れること(スキンシップ)に限定されてくることでしょう。パートナーとオーナー様とのコミュニケーションが円滑に心地よいものとして続けられるように、意識的に取り組んであげてください。

※おもらしが頻繁になるとおむつが必要になることがありますが、着用についてはメリットとデメリットがあり、それらを押さえた上で活用することが必要です。詳しくはこちら。

GREEN DOG獣医師からのアドバイス獣医師からのアドバイス

病気や高齢のために、歩行の時間が減ったり寝る時間が増えたりすると、筋力の低下が目立つようになります。筋肉や関節のリハビリに慣らしていくことも、将来的に寝たきりにならないために役立つと思います。筋肉や関節を他動的に動かすことは、筋肉の萎縮を遅くするという研究データもあります。足腰を触るマッサージに慣らしておくことも、将来的なストレス軽減になるかもしれません。普段から筋肉や関節をよく触っておくと、病気の早期発見にもなるのでおすすめです。

身に着けるものや身体接触に慣らすには

まずはパートナーにとってストレスの許容範囲内の刺激に慣らしていくことからはじめます。できるだけ弱い(小さな)刺激からはじめ、徐々に刺激を強く(大きく)していきます。その際、大好きなおやつを与えるなどパートナーが喜ぶことを刺激の直後にしてあげると、より早く慣れさせることができます。

洋服を着ることに慣らす場合

  1. 洋服を着ることに慣らす場合

    1首を通す部分にごほうび(おやつやフードなど)をのぞかせ、パートナーが自ら首を入れるようにうながします。

  2. 首を入れたらごほうびを与えます(ただし洋服はすぐ首から抜きましょう)。

    2 首を入れたらごほうびを与えます(ただし洋服はすぐ首から抜きましょう)。

  3. 3 上記①と②を繰り返します。

  4. 首を通すことに慣れてきたら、洋服をすぐには首から抜かないで数秒間キープします。

    4 首を通すことに慣れてきたら、洋服をすぐには首から抜かないで数秒間キープします。

  5. 上記をクリアできたら、肢を通す練習にも少しずつチャレンジしていきましょう。

    5 上記をクリアできたら、肢を通す練習にも少しずつチャレンジしていきましょう。

身体接触に慣らす場合

  1. 肩や背中など、比較的容易に受け入れてくれる部位に軽く触れます。

    1 肩や背中など、比較的容易に受け入れてくれる部位に軽く触れます。

  2.  直後にごほうび(おやつやフードなど)を与えます。

    2 直後にごほうび(おやつやフードなど)を与えます。

  3. 3 上記①と②を繰り返します。

  4. パートナーが嫌がる素振りを見せなければ、他の部位にも触れてみましょう

    4 パートナーが嫌がる素振りを見せなければ、他の部位にも触れてみましょう。

  5. 直後にごほうび(おやつやフードなど)を与えます。

    5 直後にごほうび(おやつやフードなど)を与えます。

  6. 6 徐々に触れる部位を広げたり、触り方を少しずつ強めてみたりしましょう。

  7. 触られることに慣れてきたら、

    7 触られることに慣れてきたら、肢を握られることや体を抱えられて保定されることにも慣らしていきましょう

視力や聴力の衰えに備えて「ボイスシグナルとハンドシグナル」

視力や聴力が衰えてくると、それまで使っていた合図でオスワリやフセの指示を出しても、パートナーにきちんと伝わらなくなってくることがあります。そんな場合に備え、ボイスシグナル(言葉の合図)とハンドシグナル(手の合図)の両方を教えておくと便利です。

フセのハンドシグナルを教える場合

  1. 新しく教えたいハンドシグナルで合図を出します。

    1 新しく教えたいハンドシグナルで合図を出します。(例:片手を下に下げる、もしくは上にあげる、など)

  2. ①の直後に、すでに理解している合図

    2 ①の直後に、すでに理解している合図(ボイスシグナルで「フセ」ので指示)を出します。

  3. パートナーがフセをしたら、

    3 パートナーがフセをしたら、たくさん褒めてごほうび(おやつやフードなど)を与えます。

  4. 4 上記①~③を繰り返します。

  5. ハンドシグナルだけでフセをするか試してみましょう

    5 ハンドシグナルだけでフセをするか試してみましょう。

  6. パートナーがフセをしたら、

    6 パートナーがフセをしたら、大げさに褒めてごほうびをいつもよりたくさん与えましょう。

この記事を書いた人

GREEN DOGスタッフ:遠藤

ドッグトレーナー、ホリスティックケア・カウンセラー

国内外の著名なドッグトレーナーやインストラクターに師事しながら、仙台、栃木、横浜などのしつけ方教室でアシスタントを7年間務めたのち、 岡山の動物系専門学校で専任教員としてドッグトレーニングを指導。その後、GREEN DOG 代官山でドッグトレーナーとして、オーナー様向けのしつけ方教室を担当。人と動物とのより良い関係づくりと、動物福祉の視点を踏まえたパートナーの家庭でのトレーニング方法を日々伝授している。

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